観測計画

HSCチームと主要開発機関

日本、台湾、プリンストン大学の研究者がすばるHyper Suprime-Cam(HSC)すばる戦略枠プログラム (Subaru Strategic Program; SSP)を共同で進めています。装置開発およびデータ解析パイプライン群の開発は、国立天文台、東京大学カブリ数物宇宙研究機構(カブリIPMU)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、台湾中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)、プリンストン大学の研究者が主に行いました。また、このHSCプロジェクトは、文部科学省(MEXT)、日本学術振興会(JSPS)、科学技術振興機構(JST)、国立天文台、カブリIPMU、KEK、ASIAAおよびプリンストン大学からサポートを受けています。

すばるHSC戦略枠サーベイ

私たちHSCチームは、口径8.2mすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCを用いて、多色フィルター(広帯域と狭帯域:注1)の宇宙イメージングサーベイを進めています。HSCカメラは、ピクセルスケールが0.168秒角の104個のCCDチップ(計8億7000万画素: 注2)で直径約1.5度角と非常に広い視野を持っています(詳細については、装置ページを参照)。この視野全体にわたり、非常に質の高い画像データが得られます。例えば、iバンドフィルターのシーイング(星像の広がり具合の程度)の平均的な値は0.6秒角と極めてシャープな画像になっています。

観測領域の広さ、深さで異なる3つのレイヤーのデータ(ワイド: 1400平方度、r~26等, ディープ: 27平方度、r~27等, ウルトラディープ: 3.5平方度、r~28等)を組み合わせ、重力レンズ効果、銀河形成の時間進化、超新星、また天の川銀河の構造を詳しく調べることにより、宇宙論および天体物理学における最重要課題に挑みます。個々のサイエンステーマの詳細は上のサイエンスのリンクからご覧ください。このHSCサーベイの観測デザイン(広さ、深さ、観測手法など)は、データの系統誤差をコントロールしつつ、科学目標を最大限達成できるように決定されています。すでにすばる望遠鏡300晩の投資が決定されており、2014年3月に開始し、約5, 6年をかけて行う予定です(詳しくはプロポーザルのページ参照)。

 

レイヤー 広さ (deg2) HSCの視野数 フィルターと深さ
Wide 1400 916 grizy(r ~ 26)
Deep 27 15 grizy+4NBs (r ~ 27)
Ultradeep 3.5 2 grizy+4NBs (r ~ 28)

観測で用いるフィルターと観測の深さ

HSCサーベイの各フィルターの性質、深さ、また観測領域の広さについては、科学目標を達成するために必要な要求を満たすように決定されています。下の表は、各サーベイレイヤーの観測で用いられるフィルターおよび露出時間をまとめています。ここで示される数値は合計の露出時間で、例えばWideレイヤーのgバンドは各観測天域で各2.5分の露出を4回行い、合計10分のデータを得る、という表記になっています。また、限界等級は、2秒開口で5σで検出することができる明るさです。

レイヤー フィルター トータルの露出時間 (回数) 夜数 限界等級 月明かり
Wide g,r 10min (4) 53 26.5, 26,1 dark
Wide i 20min (6) 53 25.9 dark
Wide z,y 20min (6) 108 25.1, 24.4 gray
Deep g,r 1.4hrs (10) 7.3 27.5, 27.1 dark
Deep i 2.1hrs (10) 5.4 26.8 dark
Deep z 3.5hrs (10) 9.1 26.3 gray
Deep y 2.1hrs (10) 5.4 25.3 gray
Deep N387 1.4hrs (10) 3.6 24.5 dark
Deep N816 2.8hrs (10) 7.2 25.8 gray/dark
Deep N921 4.2hrs (10) 11 25.6 gray/dark
UD g,r 7hrs (20) 4.8 28.1, 27.7 dark
UD i 14hrs (20) 4.8 27.4 dark
UD z,y 18.9hrs (20) 13 26.8, 26.3 gray
UD N816 10.5hrs (10) 3.6 26.5 gray/dark
UD N921 14hrs (10) 4.8 26.2 gray/dark
UD N101 17.5hrs (10) 6.1 24.8 gray/dark

サーベイフィールド

survey_fields

上の図は私たちの観測領域を表しています。今までに行われた他のメジャーなサーベイも描かれています。

Wide 春と秋の点の赤道、Hectomap
Deep XMM-LSS, E-COSMOS, ELAIS-N1, DEEP2-F3
UltraDeep SXDS, COSMOS

観測領域は以下のように決定しました。

  • HSCの観測領域は、スローン・ディジタル・スカイ・サーベイ(SDSS/BOSS)の観測領域と重ねています。これは、HSCデータの一次測光、位置較正をSDSSデータと比較することによって行うためです(注3)。また、SDSS BOSSの赤方偏移z~0.7までの銀河分光カタログと比較することにより、HSCデータの測光的赤方偏移および銀河団探査法を較正することも可能になり、これは宇宙論解析のために非常に有用です。
  • HSCの観測領域は、他の波長帯の外部データの観測領域を含んでおり、外部データと組み合わせることで様々なサイエンスを行うことができます。HSCの科学価値を高める主な外部データは、チリにある高角度解像度・高感度の宇宙背景放射の温度揺らぎ、偏光観測サーベイであるAtacama Cosmology Telescope (ACT)、X線のデータを有するXMM衛星の観測領域、およびX線衛星計画eROSITAの観測領域、近・中間赤外のイメージングデータ(例えば、VIKING、VIDEO、UKIDSSなど)、また深い分光銀河データカタログを有する領域です。例えば、VIPERS、GAMA、COSMOS, HectMAPが挙げられます

2018年3月時点でのサーベイの進捗状況

この図はWideレイヤーの観測の進捗状況を示し、色は各領域のシーイングの大きさを表わしています。重力レンズに用いるi-bandのデータは、特に質が高いデータになっており、平均的なシーイングの大きさが0.6秒角です(注4)。

共同研究サーベイ

HSCの科学成果を最大限にするために、HSCチームは他のサーベイと共同研究を行っています。

CLAUDS
CLAUDSは、Canada-France-Hawaii望遠鏡(CFHT)の計350時間もの観測夜数を費やす、uバンドのイメージングサーベイです。HSCには可視光域の最も波長の短いu-bandを持っていないので、これは非常に相補的なサーベイです。Marcin Sawicki氏 (カナダセントメアリー大学)、Stephane Arnouts 氏(フランスマルセイユ天体物理研究所)、Jiasheng Huang 氏(中国科学院)らがリードしており、HSCディープレイヤーにおける約20平方度の領域のuバンドのイメージングサーベイを行っています。CFHTのuバンドデータとHSCの多色データを組み合わせることにより、赤方偏移z~2-3の星形成銀河、z<1の銀河の静止系の紫外線帯のデータに基づく星形成率、また測光的赤方偏移の精度の改善を可能になり、これらは全て銀河進化の研究に極めて重要です。このCLAUDSサーベイはすでに完了し、データの解析を行っています。

UKIRT
米国アリゾナのSteward天文台の江上英一氏らがリードしている、UKIRT望遠鏡の約240時間を費やし、HSC-Deepレイヤーの約7.5平方度の領域について、近赤外線のJ, H, Kフィルターのイメージングデータを取得しました。目標とするデータの深さは、AB等級でJ, H, Kそれぞれ23.6、23.2、23.1等で、一部未完となってしまいましたが、このUKIRTデータは、赤方偏移z~1を超える銀河の星質量などの物理量を推定するのに有効であり、また高赤方偏移の原始銀河群、銀河団を発見することに大いに役にたちます。

将来のすばる多天体分光追サーベイ

さらに、HSCイメージングサーベイで構築した銀河カタログについて、将来計画であるすばる主焦点広視野多天体分光装置(Prime Focus Spectrograph)で分光追観測する予定です。詳しくは、このページをご覧ください。

脚注
  • 注1: 観測では通常カメラにある特定の波長の光を通すフィルターをかけて観測します。広帯域フィルターはその名の通り帯域の広いフィルターで、狭帯域フィルターは帯域の狭いフィルターです。「フィルターと深さ」にある図を参照してください。
  • 注2: CCD は Charge Coupled Device の略で、シリコンの結晶を用いて光を電気信号に置き換えることができる撮像素子です。
  • 注3: サーベイ開始後、PanSTARRS1というサーベイデータが利用可能になり、現在ではそれを用いてHSCのデータを校正しています。
  • 注4: これはすごいことです。
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