近傍から比較的遠方の銀河

近傍の銀河から100億光年かなたの銀河まで

銀河はどのように生まれ、そして、成長してきたのか?

銀河の形成および成長過程に対する私たちの理解は、スローンデジタルスカイサーベイ(Sloan Digital Sky Survey: SDSS)の登場により、飛躍的に向上しました。非常に広い領域の探査から得られる圧倒的な統計量の観測データによって、近傍の銀河の性質の多様性を描き出し、近傍の宇宙における銀河像を決定づけました。しかし、SDSSによって得られるデータでは、観測可能な銀河は比較的明るい銀河に限定されます。それゆえ、宇宙全体の15%あまりに相当する近場の宇宙しか探査できていません。銀河の成長過程を明らかにするためには、より遠くまで見渡せる深いデータが必要不可欠であり、かつ遠方銀河もSDSSデータと同様の統計量が要求されます。

いま、その役割を果たそうとしているのが、すばる望遠鏡によるHSC戦略枠サーベイです。HSCサーベイは探査領域の広さと探査可能な距離によって、相補的な3つの要素から構成されています。ワイド(Wide)サーベイデータは約80億光年かなたまでの銀河を非常に広範囲に見渡せます。ディープ(Deep)サーベイデータは、比較的狭い領域において、約110億光年かなたの暗い銀河まで見渡すことが可能になっています。そしてウルトラディープ(UltraDeep)サーベイデータでは、さらに遠くの銀河までも探査可能です。

HSCサーベイが持つ特徴として、
1. 可視光の波長域を網羅し、深宇宙探査に適した撮像データを提供
2. 前例のないほど多数の遠方銀河を検出し、それに伴う圧倒的な統計量を達成
3. すばる望遠鏡が誇る高画質データ
4. 弱い重力レンズ効果の精密測定が可能
が挙げられます。これらの強みを活かし、現在から約100億光年かなたの宇宙を探査することで、銀河の成り立ちを探る研究をHSCサーベイの研究チームがリードしていきます。

以下では、研究チームが取り組む主要な研究課題の概要を述べます。

(1) 銀河自身の星形成活動および銀河同士の合体が、銀河の質量増加に及ぼす影響は?
どの質量の銀河がどのくらいの数存在するのか、また、各々の質量の銀河の数は時代と共にどのように変化するのかを調べます。銀河の成り立ちを理解する上で最も基本的かつ重要な統計量の一つと言えます。探査領域の広さと圧倒的な銀河の数を誇るHSCサーベイが得意とする研究です。また、高画質が売りのHSCデータは、銀河合体の痕跡や近接銀河ペアの発見を可能にし、銀河合体が銀河成長に及ぼす影響を調べられます。

(2) 銀河とダークマターハローの関係が時代と共にどのように変化するか?
銀河は、ダークマターハローと呼ばれるダークマターの天体の中に形成されると考えられています。銀河の成り立ちに影響を及ぼす要素はダークマターハローの質量に依存しており、どのような質量のダークマターハローに、どのくらいの質量の銀河が平均的に存在しているのかを明らかにすることは、銀河の成り立ちを理解するための重要な情報になります。HSCの高画質による弱い重力レンズ効果の測定、銀河同士の相関関数(銀河の分布の密集度合)の測定によって、HSCサーベイでは、既存のサーベイよりも10%(??????)ほど良い精度で銀河とダークマターハローの質量比とその時間変化を測定できることが期待されています。

(3) 銀河の星形成活動はどのように促進され、また抑制されるのか?
一年あたりにどのくらいの星を新たに生み出すかを表す量を星形成率と言います。この星形成率は銀河の活動性を表す指標です。各銀河がどのくらいの星形成率を持つのか、どのくらいの星形成率を持つ銀河がどのくらいの数存在するのかは、その後の銀河の質量成長に直結します。そこで、銀河の星形成率の時間変化から、銀河の成長過程に迫ります。また、HSCサーベイの特色として、狭帯域フィルターを用いた撮像観測があります。狭帯域フィルターデータを使うことで、星形成率の指標となる銀河が放射する輝線を効率よく捕らえることができます。

(4) 銀河の形態を変化させる要因は何か?
約100億光年かなたの宇宙までを見渡すことで、近傍宇宙に見られる銀河がいつ現れたか、遠方宇宙で見られた銀河がいつ、どのように形態を変化させたかを明らかにすることが可能になります。銀河の大きさ、銀河の明るさの中心集中度、形態は、銀河の成り立ちにおける重要な情報を含んでいます。また、すばる望遠鏡の集光力のおかげで、近傍宇宙に存在する非常に淡い銀河(超低表面輝度を持つ銀河)も見つけることが可能になります。さらに、銀河が存在する周囲の環境や銀河の中心で見られる活動銀河核の影響など様々な要素と銀河の成長過程の関わりについても調べられます。

HSCで撮影された銀河の例。銀河団の中心に位置する大質量銀河(左)と、合体中の銀河(右)。

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