強い重力レンズ

強い重力レンズ

遠方の銀河やクエーサーといった天体からの光が、手前の銀河や銀河団の重力場によって経路が曲げられて複数の経路をたどって私たちのもとに到達した場合、それら遠方の天体の複数の像が観測されます。この現象は強い重力レンズとして知られています。

強い重力レンズは遠方の天体と手前の天体がたまたま視線方向にほぼ完全に重なった場合にのみ起こるため、きわめて稀な現象です。強い重力レンズは見た目に素晴らしいのみならず、以下で述べるとおり宇宙の様々な面白い側面を解明する上で非常に貴重な天体となります。

主要な科学的目標

ダークマターとその性質

強い重力レンズにより、遠方の銀河や銀河団のダークマターを含めた全質量を精度よく測ることができます。明るい星の質量を観測から推定することで、銀河や銀河団内のダークマター質量の割合や、その空間分布を調べることができます。

遠方銀河の研究

重力レンズの増光を利用することで、普通には調べることのできない遠方の若い銀河の星形成率や金属量といった物理量を調べることができます。また増光により暗い銀河の検出率が増加し、統計的に銀河の光度関数を観測の限界感度を超えて測ることができます。

巨大銀河の形成史

巨大銀河は銀河同士の衝突によって成長したと考えられていますが、詳細は明らかになっていません。統計的に十分な数の重力レンズ銀河の研究によって、銀河の中心構造が時間とともにどのように進化してきたかを調べることができ、銀河の成長の鍵となるプロセスを解き明かすことが期待できます。

超巨大ブラックホールと銀河の共進化

強い重力レンズをうけた銀河活動核 (クエーサー) は、銀河中心の超巨大ブラックホールとその母銀河の相関の起源と進化を調べる手がかりを与えます(ブラックホールのページも参照)。特に重力レンズの増光により、遠方のクエーサーと母銀河を分離することが可能となります。

統計的研究

強い重力レンズの存在量、分離角分布、アークの向きなどの統計的研究によりレンズ天体の統計的性質、および宇宙論パラメータを知ることができます。

宇宙論

クエーサーや超新星など時間変動する天体が強い重力レンズをうけた場合、複数像間の光の到達時間の遅れを測定することができます。この時間の遅れの測定を重力レンズ質量モデルと組み合わせることで宇宙の絶対距離スケール (ハッブル定数) を測定し、ダークエネルギーの性質を制限することができます。さらに、あるレンズ天体の背後に二つの異なる赤方偏移の天体があり強い重力レンズをうけている場合にもこれらの天体までの距離を精度よく測定することがきます。

HSCにおける強い重力レンズ探索

私たちはいくつかの異なる手法を組み合わせることで、銀河から銀河団スケールにわたる様々なタイプの強い重力レンズを探索します。これらの探索手法は主に二種類に分類されます

自動探索 (機械学習を含む)
– Yattalens: 銀河スケールの重力レンズをうけた銀河を探索
– CHITAH: 銀河スケールの重力レンズをうけたクエーサーを探索
– Arcfinder: 銀河群、銀河団スケールの重力レンズをうけた銀河を探索

目視
– 銀河団や遠方銀河など、重力レンズ観測可能性の高い天体の直接目視
– Space Warps: 市民参加型科学プロジェクト

HSCデータから発見された強い重力レンズの例

以下はHSCデータから発見された本物の強い重力レンズの二つの例です。リンクをたどるとより多くの重力レンズ候補を見ることができます。

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