すばる望遠鏡のHSCは、8メートル級望遠鏡に搭載されている観測装置の中で最も視野が広い観測装置です。このユニークな特徴のおかげで、これまで観測が難しかった非常に暗い突発天体(短い時間に急激に明るくなる天体)を見つけ出すことが初めて可能になりました。計画的に同じ天域を何度も観測することで、宇宙に存在する様々な種類の突発天体の研究を行います。
突発天体の多くは星の最期の爆発現象(超新星)です。宇宙論の研究のために遠方のIa型超新星(白色矮星の爆発で標準光源として使える。注1)を見つけ出すことがSSPでの突発天体探査の主な目的ですが、他にも多くの様々な時間スケールを持つ遠方の突発天体が見つかります。例えば、超新星爆発の瞬間に発生するショックブレイクアウト(赤方偏移3以下、または110億年先まで)、大質量星の爆発である重力崩壊型超新星(赤方偏移1以下、80億年先まで)、非常に明るい新種の超新星である超高輝度超新星(赤方偏移4以下、120億年先まで)、銀河の中心のブラックホールが関係する活動銀河核(赤方偏移6以下、130億年先まで)、更にはジェットが地球の方向に向かなかったため残光しか観測されないガンマ線バーストや、ブラックホールによる星の潮汐破壊現象といった、非常に珍しい可視光突発天体を発見することが出来ます。これにより、宇宙での超新星発生頻度の時間変化や、星が誕生してから超新星として爆発するまでの時間差、どのような銀河にどのような超新星が現れるのか、さらには大質量ブラックホールが宇宙でどのように進化してきたのかなどを探ることが出来ます。このような情報により、恒星進化や超新星の謎に迫ることが出来ます。
SSPでの突発天体探査は様々な時間間隔で行われます。特にウルトラディープ領域は遠方に現れる暗い突発天体の発見に適しています。ウルトラディープ領域での各バンドの観測は20回に分けて行われ、例えば赤方偏移1.4のIa型超新星も正確に観測することが可能です。
上:赤方偏移1.207と1.404のIa型超新星の光度曲線と、予想されるHSCによる観測例。図中のΔDMは、それぞれの観測から測定されるIa型超新星までの距離の測定誤差の指標。ΔDMの値は十分小さく、赤方偏移1.404という遠方に現れるIa型超新星までの距離も正確に測定できることを示しています。
下:HSC-SSPサーベイで見つかることが期待される突発天体の典型的な最大の明るさと変光の時間スケール。
注1: Ia型超新星はどれもほぼ同じ明るさで光っていると考えられています。その特徴を逆手にとって、見た目の明るさから距離を割り出すことができます。こういった明るさのわかっている天体を標準光源と呼びます。