天の川銀河

銀河系サイエンス

局所銀河群における最も暗い銀河の探査

HSCのワイドサーベイデータを用い、天の川銀河のハロー(銀河の外側)やさらに局所銀河群(注1)において、非常に暗い矮小銀河(注2)の探査を行っています。これはいわゆる「ミッシングサテライト問題」と言われる、宇宙論の一つの問題を解き明かすためです。この問題は、シミュレーションが予測する矮小銀河の数と、実際に観測されている矮小銀河の数に大きな違いがあるというもので、現在広く支持されている冷たい暗黒物質モデルでまだ完全に再現できていません。

Sloan Digital Sky Survey (SDSS) による銀河系星の系統的な観測研究により、銀河系ハローにおいてこれまでになく暗いクラスの超低光度矮小銀河が発見されました。SDSSが観測した空の領域では、Vバンドの絶対等級M_vが-6等よりも明るい矮小銀河は見つかっていますが(注3)、非常に暗い(M_v>-4)ものや太陽からの距離が遠いものは、SDSSの観測限界をこえています(図1)。 しかし、このような暗い矮小銀河の探査は、冷たい暗黒物質モデルを検証するのに必要で、上で述べたようにモデルは銀河系サイズのハローの周囲に、何百ものダークマターで出来たサテライト(サブハローとも呼ぶ)の存在を予言するからです。この暗い矮小銀河は、銀河系ハローよりも遠い距離にあって局所銀河群の空間にも多くあるかもしれません。HSCによる超低光度矮小銀河の系統的な探査により、サブハローの特徴(大きさや空間分布)や、矮小銀河の形成と天の川銀河形成史との関係について基本的な理解が得られると期待されています。

図1:銀河系矮小銀河のVバンドの絶対等級M_vと、矮小銀河までの距離との関係。各線は、各サーベイ探査の観測限界を表し、HSC-SSP(赤実線)、SDSS(黒実線)、Skymapper(点線;南半球で進行中のサーベイ)、LSST(短破線と長破線;今後計画されているサーベイ)です。 (Tollerud et al. 2008, ApJ, 688, 277を改変)

銀河系ハローの3次元マッピング:ハローの端はどうなっているのか?

HSCのサーベイデータの中から青色水平分枝星(BHB星)を選び出し、銀河系ハローの星の分布を探ろうとしています。天の川銀河に「端」はあるのでしょうか?BHB星の絶対等級は明るく、かつその等級分布は狭い範囲にあるため(図2右)、遠くあっても見つけることができて、さらに距離を正確に決めることができます。つまり、BHB星は標準光源としてとても都合が良いのです。HSCの多波長で深い測光観測を用いれば、銀河系ハローの端やそれより遠いところにあるBHB星の分布を得ることができます。

銀河系ハローにある星は、銀河系中心からの距離rが少なくとも100kpc(1kpc =1000pc。注3も参照)までは広がっていて、内側と外側のハローで異なる密度分布を持っています。ハローの外側は、小銀河が外から落ちてきて合体して出来たと考えらていて、非一様で潮汐ストリーム(注4)などの構造が多い状態になっていると予想されています。しかしながら、これまでのサーベイでは比較的小さな空間領域しか探査されず、探査領域がせいぜい80kpcぐらいまででした(図2の左を参照)。そこで、本プログラムによって銀河系ハローのビリアル半径(300kpc程度で天の川銀河の「大きさ」の目安)やそれをこえる領域のBHB星の分布を調べ、銀河系ハローの広がり、特にその外側の空間分布を調べることによって、ハローがどのように形成されたかについての手がかりを得ることができます。

図2左:SDSSによって得られたBHB星の空間分布図(Xue et al. 2011, ApJ, 738, 79より抜粋)。銀河系中心が真ん中で、太陽は(x,z)=(8,0)kpcにあります。星はその視線方向の速度で色づけしてあります。

図2右;銀河系の暗い矮小銀河のひとつの Bootes Iの色等級図(Okamoto et al. 2012, ApJ, 74, 96より抜粋)。縦に星の明るさ、横に色をとり、この図上での星の分布を表しています。BHB星の領域を四角で示しています。

注1: 天の川銀河とアンドロメダ銀河を中心として複数の銀河が密集しています。これを局所銀河群とよんでいます。
注2: 大きい銀河から小さい銀河まで宇宙には幅広く存在していますが、その中で小さい銀河を矮小銀河とよんでいます。
注3: 絶対等級とは天体を10pcの距離に置いた時の明るさで、1pcは3×10^18cmです(zzz)。参考までに典型的な巨大銀河の明るさはMv=-22等程度。天の川銀河もこれぐらいの明るさとされています。
注4: 銀河の衝突合体ではしばしば星が潮汐相互作用で飛び散り、細い帯状に分布することがあります。これを潮汐ストリームとよびます。

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