初期宇宙の銀河
私たちは銀河の中で星がどのようにして作られるのかを、もっとよく知りたいと考えています。どのような環境が星形成にとってもっとも良いのでしょうか。宇宙がどのぐらい膨張した時にもっとも多くの星が作られるのでしょうか。
水素は宇宙の中でもっともありふれた元素で、観測で得られる信号の多くは水素と関連づけられています。一つの陽子が一つの電子を捕まえると、中性水素原子を形成します。基底状態(もっともエネルギーの低い安定な状態)にある中性水素が光を吸収し、励起状態(エネルギーの高い状態)に移った中性水素が再び基底状態に戻ると、ライマンアルファ放射と呼ばれる光を発します。中性水素が大量に集まった雲は912オングストローム(紫外線。人間の目には見えない)よりも短い波長の光を全て吸収してしまうという性質もあります。こうした光の吸収と放出のメカニズムを利用することで、高赤方偏移の銀河を捉え初期宇宙を探ることができます。紫外線を強く吸収したライマンブレーク銀河や、ライマンアルファを強く放射しているライマンアルファ輝線銀河はその代表例です。
HSCを用いた高赤方偏移銀河の主な目的は次の通りです。
1.どのような明るさの銀河がどれだけ存在しているか(光度関数)、銀河の空間的な群れ具合がどれぐらい強いのか(角度相関関数)を高い統計精度で測定します。そして図1のように、銀河とダークマターハロー(注1)の関係をモデルの予想結果と比較することで、 遠方宇宙における星形成活動を明らかにします。
2. ライマンアルファブロブと呼ばれる、空間的に広がったライマンアルファ輝線銀河を調べることで、銀河のガスの広がりや運動の様子を明らかにします。
3. ライマンアルファ輝線銀河を用いて宇宙がどのように再電離(注2)されていったかを調べます(図2)。
4. 宇宙の構造形成を明らかにするため、原始銀河団候補(生まれている途中の銀河団)を数多く見つけ出します。
これらの目的を達成するために、私たちは全てのワイド、ディープ、ウルトラディープの全てのサーベイのデータを使います。観測データは遠方のライマンブレーク銀河を観測でき、さらに狭帯域フィルターでライマンアルファ銀河を検出できるように設計されています。十分な深さと広さによって、上で述べた光度関数や角度相関関数を非常に高い統計精度で測定することができます。さらに数多くの原始銀河団を発見することもできるでしょう。
星とダークマターハローの重さの比を、ダークマターハローに重さの関数として表したもの(Foucaud et al. 2010の図6)。縦軸は過去の星形成効率を表しています。三つの矢印は、それぞれのサーベイで観測される質量を表していて、もっとも重要なピークを捉えることができます。
(左) ディープサーベイで予想される、赤方偏移5.7(青)、6.6(緑)、7.3(赤)でのライマンアルファ光度関数。白丸の点はSuprime-Camによってすでに得られているデータ。赤方偏移が増加すると光度関数が減少するのは、宇宙が中性だった時代に近づいているためであると考えられています。
(右) 赤方偏移6.6でのライマンアルファ銀河の角度相関関数(赤点)。黒線は、McQuinn et al. (2007)のシミュレーションの結果を表し、それぞれ中性水素の割合xHI=0、0.3、0.5、0.8の場合に対応しています。HSCによって得られる精密な角度相関関数は10-300秒角の広い範囲をカバーし、中性水素割合xHIごとの角度相関関数の形の違いを区別でき、xHIを~0.2の不確かさの範囲で制限することができます。
注1: 銀河はダークマターの塊、ダークマターハローの中に存在していると考えられています。
注2: 非常に初期の宇宙は高温の塊でしたが、それが膨張を続けて冷え、電子と陽子が結びつき中性水素の存在する宇宙になります。それが銀河の形成により、銀河からの紫外線で水素が電離(電子と陽子が離される)されます。これを宇宙の再電離とよびます。