概要
HSC戦略枠観測(Subaru Strategic Program; SSP)のデータ解析は、専用のデータ解析パイプラインソフトウェアを用いて行われています。 このパイプラインは、国立天文台、東京大学K-IPMU、プリンストン大学からなるチームによって開発されています。アメリカの次世代望遠鏡計画であるLSSTのデータ管理チームが開発したソフトウェアを基本部分に据え、HSCのデータ解析のための修正と新たな機能を加える形で構成されています。この開発では、新しいアイデアを加えるとともに、すでに様々な成果を出したSDSS計画で使われたPhotoという天体測定ソフトウェアや、ハワイ大学が中心となって進めているPan-STARRS望遠鏡計画の画像解析パイプラインのアルゴリズムを有効に生かすことで、科学的な信頼性を高める工夫をしています。HSCデータ解析パイプラインはSSPだけではなく一般の観測者も使うことが出来ます。 詳しくはこちらのサイトをご覧下さい(https://hsc.mtk.nao.ac.jp/pipedoc/)。
HSCのデータ解析の流れは大まかに分けて4つのステージからなります。
1.積分ごとの処理
2.積分を足し合わせるための較正
3.画像の足し合わせ
4.足し合わせ画像の測定
現在はまだ実装されていませんが、以下の処理も将来的に行うことを目指しています。
5.各積分画像の再測定
6.画像引き算による突発・移動天体の検出
1. 積分毎の処理
このステージでは、各積分(1回カメラで画像を取ること、visitと呼びます)の各CCD画像の処理を行い、各画素ごとの感度差や背景光などのノイズとなる不要な情報を取り除くことを行います。これには、下記のような操作を含みます。
バイアスの差し引き、感度差補正(フラットフィールディング)、欠陥画素・宇宙線の除去、背景光の差し引き、点源が画像上でどのような形状をしているか(PSFといいます)の測定、画素と天球座標の対応付け(アストロメトリ)および信号から等級への変換(等級原点決め)(これら2つはPan-STARRSカタログを用いる)、天体の検出と測定。
2. 積分を足し合わせるための較正
次のステージでは、処理されたCCD画像を足し合わせるために、素子間の位置関係や信号強度の比を求めます。前のステージで測定された各CCD画像の恒星の重心座標と輝度を合わせて用いることで、各CCD画像のより精度の高い天球座標(WCS)と信号強度(フラックス)比をCCD画像内の位置の関数として決定します。この操作はトラクトと呼ばれるおよそ1.7×1.7度の事前に定義された天の領域ごとに行われます。
3. 画像の足し合わせ
各トラクトごとに、そのトラクトに重なりを持つ処理済みのCCD画像が画像変換され足し合わされます(Coaddと呼びます)。CCD画像は、画素ごとに信号輝度で重みを付けた平均値を求めることで足し合わされます。このステージは各バンドごとに行われ、バンドごとの足し合わせ画像が作られます。先のステージ(積分ごとの処理)で測定された各CCD画像の星像の情報(PSF)を合成することで、足し合わせ後の画像のPSFモデルを生成して、次のステージの天体測定で利用します。足し合わせの際には、人工衛星痕や宇宙線といったノイズ源を減らすために、外れ値の除去も行われます。この時、PSFモデルと実際の足し合わせ後の画像で差が生じないよう、擬似天体にマスクをしてから平均を取るという工夫をしています。
4. 足し合わせ画像の測定
このステージでは、各バンドの足し合わせ後の画像上で天体を検出・測定し、それらを融合してマルチバンドの天体測定情報(カタログと呼びます)を生成します。この処理は3つのステップに分かれて行われます。(1) まず、各バンドで天体を検出し、それらを合成します。この時、天体ごとに、天体信号の画像上での広がり具合の情報も合成されます。(2) 次に合成された検出情報をもとに、各バンドの天体を測り直すことで、各天体の重心と形状を決めます。そして、再び各バンドで得られた測定値を集め、優先度の高いバンドでの測定情報をその天体の代表値として採用します。(3) 最後に、各天体ごとに各バンドでの最終的な測定を行います。この時、(2)で決めた各天体の重心と形状を固定して輝度のみを決め直します(forced測定と呼びます)。こうして測られたマルチバンドの天体の輝度情報(マルチバンドカタログ)は、科学研究の中で、天体の色を正確に理解するために用いられます。