銀河団

銀河団 ー太古の宇宙から現在までー

銀河団は宇宙において最も重くて巨大な重力的に束縛された天体で、数百個の銀河(注1)、数億度にもなる高温のガス、そして大量のダークマターから構成されます。銀河団は宇宙の中では非常にまれな集団ではあるのですが、宇宙論や天体物理学にとっては絶好の実験室です。例えば、銀河団の存在数はダークマターやダークエネルギーの性質に敏感であるし、銀河団の中にいる銀河の性質から銀河を取り巻く「環境」が、銀河の成長に与えた影響も調べることができます。

HSCサーベイは空の広い領域を深く観測しています。そのため、非常にユニークな銀河団の研究を進めることができるようになりました。

  • HSCのフィルターセットはユニークで、広い波長帯において良好な感度で観測できるため、赤方偏移1.4(約90億年前)までの銀河団を探査することができます。とりわけ、遠方にある質量の重い(つまり希な)銀河団を発見することができます。
  • 銀河団研究の様々な場面で銀河団の質量は重要な物理量になります。HSCの素晴らしい画像のおかげで、強い重力レンズ、弱い重力レンズ効果の双方を用いて、銀河団質量を正確に測定することができます。
  • 銀河団は銀河をトレーサーとして発見されることが多いですが、重力レンズ効果を用いることでその質量によって選択された銀河団の大規模サンプルを、初めて作成することができるようになります。
  • DeepとUltra-Deepサーベイレイヤーの狭帯域フィルターを使うと、赤方偏移1から2にある銀河団を探索することができます。この赤方偏移帯は、現在の銀河団の中に見られるような大質量銀河の星形成の歴史や力学的な進化に対する理解を深めるうえで特に重要です。
  • ライマンブレーク手法や狭帯域フィルターを用いて遠方の銀河を選出することで、赤方偏移が2以上の”銀河団”を見つけることができます。これらは一般に原始銀河団と呼ばれており、銀河団がまさに形成している途中段階にあるものです。
  • 3種類のサーベイレイヤーから得られた銀河団・原始銀河団のサンプルを組み合わせることで、銀河団の幼少期から老年期まで総括的にその形成と進化の研究を行うことができます。これはHSCサーベイの最もユニークな研究の一つと言えるでしょう。
  • DeepとUltra-Deepの観測領域では、紫外線から近赤外線までの外部データ(HSC以外の他の装置で撮られ、公開されているデータ)を使うことができます。これらのデータを用いて各銀河に測光的赤方偏移を適用することで、赤方偏移が1.4以上の銀河団を発見することができます。HSCの非常に深い観測データを用いることで、銀河団の質量関数(*注2)を小質量側まで測定することができ、現在見つかっている典型的な銀河団の先祖について探ることができます。

現在進行中の他のサーベイとの共同研究も進められています。例えば、宇宙背景放射を探っているACTPolチームとは、HSC Wideサーベイレイヤーでスニャエフ-ゼルドビッチ効果(注3)を通して銀河団を見つけようとしています。HSCとACTPol銀河団サンプルの相互相関によって、銀河団の高温ガスの性質について非常に興味深い研究ができるようになります。また、eROSITA(近年打ち上げ予定のX線衛星)とも共同研究が現在進行中です。これらのデータを組み合わせることで、異なる銀河団の発見方法を高赤方偏移まで比較することが可能です。さらに、XMM-Newton衛星(現在稼働中のX線衛星)を用いたX線による銀河団の研究も進めており、銀河団の高温ガスに対する理解が飛躍的に進歩すると考えられます。

図:r,i,zバンドのデータを合成して作成した銀河団の3色合成画像。この銀河団は、CAMIRAという銀河団探索アルゴリズム(Oguri 2014)によって発見されたものです。左の銀河団は赤方偏移0.47、右は0.81のもの。

注1:厳密な数はどれぐらい小さい銀河までを数えるかで大きく変わります。
注2:質量関数はある質量を持つ天体の数を示す関数です。
注3:銀河団中の高温ガスが宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の光子に作用し二次的な温度揺らぎを生成する仕組みのことです。この効果により、銀河団はCMBから”浮き上がって”見えます。

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